遥かなる海
大航海時代オンライン、主に海賊とお料理、ユーザーイベントをこっそりと書き綴っているブログです。
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桃夏@Euros

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Euros鯖、イングランド国籍です。
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ブーゲンビリアに想いを乗せて

ジブラルタル海峡を通過し、バレアレス諸島沖に入る。
特に大きなアクシデントもなく航海は順調そのもの。
マストから見下ろす風景もいつもより大きく見えた。
「ふふ。もーすぐだっ。」
「桃ちゃん、やけに嬉しそうだね。」
ゆぐがひょいっと隣に腰掛ける。
「うんっ。もうすぐチュニスじゃない。久しぶりにあの子に会えるもの。」
「そっかぁ。そうだね。チュニスっていえばリリーだっけ。 桃ちゃんいっつも言ってる子。」
ゆぐはポンと手を叩くとティレニア海へ向き直った。
「確かおいらと出会う前の話なんだよね。あの頃は桃ちゃんも若かったんだろうなあ・・・。」
「じぃぃ。うら若き乙女つかまえて何言ってんの!」
「ひぃぃ~」
バシっと背中を叩くとゆぐは一目散にマストを降りていった。
一人きりになった私はもう一度チュニスを思い浮かべる。
あれから三年かあ。リリー元気にしてるかな。



ジェノバで依頼を受けた私は一路セビリアへと向かう。
途中嵐に逢い、まだ経験の浅かったため航路を見失っていた。
「船長、食料があと三日分しか持ちやせんぜ。至急近くの港に寄港してくだせぇ。」
「あっ、うん・・・。でもここどこだろう・・・。」
船員達が呆れる様な目線で私を見つめる。だってぇ・・。
「しっかりしてくれやせぇ。船長の四文儀をあっしらに渡してもらえやすか?」
淀みのない手付きで四文儀を操る熟練船員。あの人の船から指導役で着てくれた人達だ。
「         ですぜ。こっからだと南西にチュニスって港町がありやす」
「わかりました。ではそこに寄港しましょう。」
気を取り直して背筋を伸ばす。ちょっとでも威厳のあるとこを見せないと・・・。
「そうそう、あんたがこの船の大黒柱だ。どしっと構えてりゃええんです。あとはあっしらがサポートしまさあ。」
そう言うと船員達はにっこりと笑った。
今はまだ未熟でもいつかきっとこの人達に相応しい船長になってみせる。



 


数日後、商用キャラベル「アマルシア」がチュニスに寄港した。
「よし。船長、あっしらは船でまってやす。食料と水の補給をお願いしまさあ。」
「了解っ。すぐに戻るね。」
私は甲板を降りるとすぐに出航所へと駆け出した。
「しかし、、旦那ぁ、ここって確かオスマンの港じゃ。船長一人で大丈夫でしょうか?」
「船長には酷だが俺らが着いていっても何にもならんさ。ここで経験積んでもらわないとな。」
「でも船長に何かあったら・・・。」
中堅船員は気遣うように熟練船員を見た。
「そん時はそん時だ。ま、そうならねえように手は打ってある。もっとうちらの船長信じようぜ。」
「旦那がそう言うんなら仕方ねえ。」
何か嫌な予感するよなあ。何も無ければいいんだけど。


 



「入港管理局はこっちよね・・・何か私の知る場所とは違うけど・・。」
辺りにはターバンやイェレク。女性であればチャドリを着た人達が並んでいる。
水や食料、生活必需品は勿論、持ち込んだ交易品も全て入港管理局でチェックされる。
街にとって有害な物を持ち込ませないためのものだ。
ここで許可を貰えなければ補給もままならない。ま、くよくよしててもしょうがないよね。
「おじさん、あの船に水と食料を補給したいんだけど、許可下さい。」
「いらっしゃい。って、あんた・・・西洋人か?」
管理官が私の服装をジロジロと見つめた。確かに浮いてるとは思うけど・・・。
隠すのも嫌だし。私は素直に答えた。
「はい。ジェノバからきたの。途中で嵐に遭っちゃって補給させてほしいんだけど。」
「そいつは大変だったなあ。でもな、お嬢ちゃん。ここはオスマントルコの管轄下だ。西洋人の入港は認められないな。」
・・・オスマンの港?!確かに言われて見れば見た事のない船がいっぱい並んでる。
でも私がここで食い下がるわけにはいかない。皆がお腹空かせて待ってるもの。
「そ、そこを何とかお願いしますっ!食べる物も残り少なくて・・・。」
「お嬢ちゃん、気持ちはわからんでもないが、あんたそんな格好で街中出てみろ。すぐにオスマンの兵隊が来て連れてかれちまうぞ。」
管理官のおじさんはダメだダメだと手を振った。
「ほらほら、帰った帰った。入港したいんならそれなりの格好してきな。」
そんなあ・・・。海の上でも役立たず。そして補給すらまともにできない船長。泣きたくなってくる。
その時だった。
「おねーちゃん、こっちこっち。」
年は13歳くらいだろうか。真っ白のガンドゥーラに身を包んだ可愛らしい女の子だった。
女の子に手を引かれて駐留している船の片隅に着くと、
「もう、ダメじゃないっ。」
途端に女の子がまくしたてた。
「いい、おねーちゃん。ここは西洋人の街じゃないの。おねーちゃんみたいな人がそんな格好でうろついてたら入管にいても捕まっちゃうんだからねっ。」
「う。うん。」
「でもどうしても入りたいとか?」
「うん!船の皆にご飯持って行かなくちゃ・・・。」
「ふむふむっ。それならあたしに良い案があるよっ。」
女の子は人差し指をグイっと上に突き出しこう言った。
「あたしの依頼聞いてくれたら、代わりにうちのお母さんのお洋服貸してあげるっ。」
なるほどっ。そうきたかぁ。
「うん。いいけどその前に・・・・。」
「その前に?」
「私の名前は桃夏。あなたの名前は?」
「あたしはリリー。よろしくね、桃おねーちゃんっ。」
それが小さな依頼人、リリーとの出会いでした。


 



20分後、リリーのお母さんのチャドリとチャドル、アラビアンシューズを借り倉庫裏でこっそりと着替えた。
「うんうん、サイズは良い感じだね。似合う似合う。」
チャドルで顔を隠す。イスラムの教えなのかな?ちょっと窮屈だけど仕方ないっか。
「でもリリーのお母さん用のなんでしょ。勝手に持ち出して叱られないの?」
「んー、あたしんちのお母さん二年前に流行病で倒れちゃってね。もういないんだ・・。」
「・・・そうだったの。ごめんね、変な事聞いて。」
「んーんー。いいよっ。もう昔の事だもの。」
そう言ってリリーはニッコリと笑った。
どうしてだろう。どうしてこの子はこんなに強いのかな。私だったらそんな風には笑えないよ・・・。
「ねね、リリーは私にどうしてここまでしてくれるの?」
いくら頼みごとがあるとはいえ、大切な人の形見を貸してまでしたい頼みごとって何だろう。
「桃おねえちゃんはいつから海に出てるの?」
リリーは途端に真剣な顔つきになって聞いてきた。
「ついこないだ。私が18の誕生日を迎えたときからかな。まだ三ヶ月目で皆に迷惑かけてばっかりで・・。」
「やっぱりそっかぁ。まだ駆け出しさんなのね。」
「うん・・・。」
何か年齢と立場が逆みたい。でも私の目にはリリーが大きく見えたんです。
「あたしんちね、そんな裕福じゃなかったからさ。お母さん倒れてから私が代わりに店番する事になって。お父さん、お母さんがいなくなってから半年に一回巡礼船で南の大きなモスクに行くようになったてこともあるんだけど。」
この子は二年前からずっと働いてきたんだ・・・。
「凄いんだね、リリーって。」
「あははっ。そんな事ないない。あたしと桃おねーちゃんって似てるなあって思ったの。」
「えっ?どうして?」
「さっきの会話聞いてたよっ。桃おねーちゃんって自分に自信ないでしょ?」
う・・・。確かにまだ経験の浅い私には海千山千の船乗り達に自信をもって命令なんて出来ないよ・・・。
「あ~、その顔、さっきと一緒だぁ。おねーちゃん、駆け出しだからとか経験浅いとか考えてるんでしょっ。」
リリーは人差し指を私の顔に突きつけ、そのまま胸の位置まで持ってくる。
「いい?経験や経歴って確かに大事だけど、それよりもっと大事なものがあるの。」
「う、うん。」
「お母さん亡くして毎日泣きながら店番してた。その時ね、桃おねーちゃんみたいな西洋人が入港してきたの。当時は今よりもっとオスマンの取締りが厳しくて、入管どころか港前で迎撃する構えすらみせたって聞いた。でもその人はティレニア海で海賊に襲われてたオスマンの商船を曳航しててね。」
「うん。」
「特例として港への立ち入りと補給を認められたんだけど、その時うちの店に来たんだ。すっごいキレイでカッコ良い人だったよっ!」
リリーが目を輝かせてなおも続ける。
「でも当時のあたしって塞ぎ込んじゃってたからさ。その日も慣れない仕事と悲しみでポカしちゃったの。あたしはまた怒られるって思って萎縮しちゃってたんだけど、その人怒るどころか頭をなでてくれてね。気付いたら今まで辛かった事とかその人に全部打ち明けちゃってたみたい。」
てへ、と舌を出す。
リリー、生きるって事はさ、誰にとっても難しい事だよ。失敗なんかしたっていい。明日の事なんか考えないで、今を一生懸命に生きなさい。
「こう言ってくれたんだ。凄い衝撃だった。今を一生懸命に。お母さんもそうやって一生懸命に日々を送ってたんだなってそう思ったの。そしたらさ、何か吹っ切れちゃった。だからおねーちゃんも・・・。」
自信もってやりなよっ。と胸を軽く叩かれる。
「結果はあとからついてくるんだからねっ!」
今を一生懸命に生きる・・・。私よりずっと小さな子がこんなにも頑張ってる。
「それでね、桃おねーちゃんって前のあたしに似てたってのもあるんだけど、その西洋人の匂いもするから・・・。」
あたしの憧れの人なんだ~。もう一度会いたい。そんな想いを込めてリリーは空を見上げた。
「そう、そうだったの・・・。」
「うんっ。だから桃おねーちゃんも胸張って頑張るのだっ。」
「うん・・・うんっ!私、やってみるっ。」
私に出来る事は少ないけど、私にしか出来ない事だってあるはずだ。
足手まといだっていい。役立たずでも構わない。自分に自信をもってやっていこう。
私の気持ちが伝わったのか、リリーは満足そうに頷くとニッコリと笑ったのでした。
「あ、そうそう。でね、依頼の事なんだけど・・・。」


 


 



「ごめんごめん、お待たせっ。」
寄港してから既に数時間。日も大分高くなってきた頃、私はリリーの協力を得て何とか補給の許可を頂いてきました。
「おかえりやす。船長、大変だったんじゃ?」
中堅船員が心配そうに私を見つめた。ふふ、もう大丈夫だよっ。
「ううん、私の仕事だから。それより日が暮れる前に補給終わらせて出航するよ。皆急いでっ。」
ここはオスマンの港だ。変装していたとはいえどこかで感づかれてたら不味い事になる。
「あいさー。船長は指示を。あとはあっしらがやりやすぜ!。」
「うん、頼りにしてます。さ、取り掛かるわよ!」
今を一生懸命に。悩むより行動する。小さな先生に教わった事だ。
これから先どんな苦難があっても乗り越えられる。そんな気がした。



「どうやら一皮剥けたようだな。」
「旦那の言ってた通りだ。船長、人が変わったみてぇだ。旦那、どうやったんで?」
熟練船員は困ったように頭をかくと、
「いやあ、俺は何もしてねえよ。どうやらもっと良い先生に先越されちまったみたいだけどな。」
豪快に笑った。もう大丈夫だ。船長は良い船乗りになれそうだ。そう、あっしらのお頭のような偉大な船乗りに。
「そうなんですかあ。ま、うちらとすりゃ船長が成長してくれるのは良い事にちげねぇや。」
中堅船員も釣られて笑う。船長、困った時はあっしらがいくらでもサポートしやすぜ。



以心伝心。そんな想いを風にのせ、夕刻前、商用キャラベル「アマルシア」はチュニスを発っていったのです。






「・・・ちゃん。桃ちゃ~んっ!」
・・・っと。いつの間にか眠ってたらしい。マストの下からゆぐが呼んでいた。
「ん~、どうしたのー?」
「そろそろティレニア海に入るよー。寄港準備しないと。」
わわ、もうそんな所まできてたんだ。私は急いでマストから降り倉庫へと向かった。
「うんっ、良い香り。」
普段であれば殺風景なはずの倉庫に漂う甘い匂い。
「しっかし、船長、凄い量のブーゲンビリアですねえ。こんなに一体どうするんで?」
「ふふっ、小さな依頼人さんとの約束なの。カリブに行ける様な一人前の航海者になったら船倉いっぱいにブーゲンビリアを持ってくるってね。」
「そいつはそいつは。可愛らしい依頼人さんだ。船長らしいや。」
「もっとも、あれから三年・・・。もう立派なお嬢さんになってそうだけどねっ。楽しみだぁ。」
光陰矢のごとし。リリーはどんな女性になってるんだろう。その日は中々寝付けずに夜を過ごしたのでした。




チュニスに寄港すると港前は喧騒に包まれていた。
「どうしたのかしら・・。」
三年前とは違い、近年列強の圧力に屈したオスマンの行政官は西欧諸国にも門戸を開放した。
変装をせずとも街に入れるようになりこれまでは特に問題はなかったはずだけど。
「ゆぐ、とりあえず入港申請をお願い。」
「了解っ。任せてよ。」
「私は付近の様子を探ってくるわ。皆はここで待っていて。」
「へい、わかりやした。」
まずは原因を突き止めないと。入港してから一悶着あったのでは遅い。
リリーに渡す予定のブーゲンビリアのみを持って私は駆けて行った。




「ちくしょー・・・許せねぇっ!」
「そうだそうだ!何だってあんな船を沈めたんだ・・。」
「正に非道の極みだぜ。最低だ!」
出航所に近づくにつれて喧騒は大きくなっていた。
ここから聴こえる限りだと何かが襲われたようだけど・・・。
「ねえ、何があったの?」
近くにいた中年のおじさんに声をかけた。
「ん?あんた西洋人か?」
おじさんが胡散臭そうに私を見つめる。もう慣れっこだ。
「そんな事どうでもいいでしょ。で、何があったの?」
「ん、ああ、ここから東にあるアレクサンドリアに向かってた巡礼船が海賊に襲われて沈んだらしい・・。」
おじさんはガックリと肩を落す。・・・って巡礼船?!
「それで!巡礼船はどうなったのよ!?」
知らず知らずのうちに声が大きくなっていた。おじさんは一瞬ビクッと身体を震わせるも答えてくれた。
「全滅・・・生存者はいないらしい。金目の物なんて積んでなかったんだろう。腹を立てた海賊が砲撃で沈めたって話だ。」
「何ですって・・・。巡礼船といえば西欧・オスマン各国にも手を出してはならない国際法があったはずなのに・・・。」
「だから非道なんだよ!それが海賊さ・・・。」
お父さん、お母さんがいなくなってから半年に一回巡礼船で南の大きなモスクに行くようになったてこともあるんだけど
頭が真っ白になる。確かリリーのお父さんも巡礼船に・・・。
「そ、その巡礼船に乗ってた人達の名簿ってないの?!」
「今入管で調査してる・・・。そのせいで西洋人が入港が遅れるとか文句いってるがな・・・けっ、勝手なこった!」
おじさんは吐き捨てるように言う。が、そんな事はほとんど耳に入ってなかった。
足が震える・・・。もし、リリーに何かあったら・・・。
私はふら付きながらも入管へと向かった。




「あ、桃ちゃーん。何か大きな事件があったらしくて入港制限されてるんだけど・・・って顔色悪いよ。大丈夫?」
ゆぐが私の姿を見つけるや否や駆け込んでくる。
でも、今の私にはそれすらも目に入っていませんでした。
「おじさん!襲撃された巡礼船の名簿見せて!」
割り込むように管理官に問い詰める。辺りからは非難の目が向けられるが気にしてられない。
「ああ・・・もしかして家族でも乗ってたのか・・・?君、ちょっとこの人を別室へ。」
窓際の女性に案内された部屋には他にも多数の人がいた。怨嗟の呻きと共に。
「うぅ~~。なんで、なんであの子が・・・。」
家族や恋人、大事な人を失った悲しみが部屋のあちこちから聞こえる。
「こちらがその名簿になります。遺体はありませんが生存は絶望的です。」
事務的な口調とともに船員名簿が手渡された。
そこには、紛れもなくはっきりとリリーの名前が書かれていた。
ドサッ。
ほとんど無意識だったのだろうリリーに渡す予定だったブーゲンビリアが手から落ちる。
「桃ちゃーん、どうした・・・の?」
おねーちゃん、こっちこっち。
私に気付いたらのだろう。ゆぐが声をかけるも表情を見て言葉を止めた。
あたしはリリー。よろしくね、桃おねーちゃんっ。
あの子の声が頭の中でリフレインする。
だが、無常にも名簿に刻まれたリリーの名前が私を現実に引き戻した。
「そ、そんなの、、、そんなのって・・・・そんなのってないよーーーーっ!!」
辺りを憚らず、慟哭が続いた。同じように泣き叫ぶ人達。
ただ風だけがいつも通りに吹く。人の営みなど歯牙にもかけぬよう。
開いていた窓からブーゲンビリアが風に乗って飛んでいった。






「ゆぐ、HMS Mezzanineを出して。」
「・・・う、うん。わかったよ。」
【HMS Mezzanine】戦闘用ガレオンにして、あの人の乗艦だった船だ。
数年前に建造された船だが、当時の技術を結集して造られた戦艦。
徹底的にチューンアップされた船体と漆黒の帆から生み出される船速は他者の追随を許さない。
「ごめんね・・・。あなたを復讐の道具なんかに使いたくはないのだけど。」
突貫作業で改装を進める姿をよそに、私はさっきの事を考えていた。



 



「許さない・・・許さないッ!」
まだ涙も乾ききらない。私は新大陸原産の黒粉で無理やりメイクすると海事ギルドへと向かった。
「も、桃ちゃん。まってよ~。」
今の私の中にはドス黒い復讐心だけが渦巻いていた。
「あんな罪もない一生懸命に生きている子がどうして・・・。」
怒りが焦燥心を駆り立て、正常な思考を妨げる。
そんな事にも気付かずに私はただ走り続けました。
「・・・なるほど。敵はアレクサンドリア北へ逃走していったのが目撃されたのですね。」
「そのようだ。どうにかして連中を討伐してくれッ。とお客さんが来たようだな。ひでぇ面してやがるが。」
ギルドマスターは厳つい顔を更に渋め、私に向き直った。
「どうしたんだい?依頼の請負か?」
「おじさん、巡礼船を襲撃したやつらの情報が欲しいの。」
海事ギルドには各地の情報がいち早く回される。安全は何物にも変えられないからだ。
だがそんな私を後目におじさんは答えた。
「ん・・・、悪いが巡礼船を襲った海賊の討伐は横にいる彼女が請け負ったぜ。」
マスターはそんなわけだからよ。とその女性に向き直る。
「私にも、私にも情報を回してくださいッ!」
「五月蝿いな。そんな大声出すなよ。いいか、訳ありだが何だか知らんが今のあんたじゃ無理だぞ。」
「無理も何も、やってみなくちゃわからないでしょう!外見で判断しないでよ!」
私が尚も詰め寄ろうとした時、隣から手が伸びた。
「はぁ~い。私が依頼受けたてぃてぃでーす。」
どこか間の伸びた声。てぃてぃさんは気さくに笑いながら声をかけてくる。
「・・・桃夏です。てぃてぃさん。この依頼私に回してくれませんか?」
精一杯声を落ち着かせて何とか切り出せた。暴発しそうになる感情を無理やり抑え付ける。
「それはダメですよー。マスターも言ってましたが今の貴女じゃ無駄死ににしかなりませんねぇ。」
てぃてぃさんが私を見ながら言い放った。
「なによ。外見なんかでわかるわけないじゃないッ!」
「わかります。貴女からは戦いの覚悟が伝わってこない。」
急に真顔になるとてぃてぃさんは私に正対した。
「桃夏さん、貴女笑って人を殺せますか?」
笑って人を殺す・・・。無理だ。また頭の中がドス黒い感情で支配されていゆく。
「どうやら無理みたいですね。いいですか?相手は巡礼船をも沈める海賊です。どんな卑怯な手段を使ってくるかもわからない。今の貴女ではそれに対応するのは難しいでしょう。」
てぃてぃさんはにやっと笑う。私に向け手で銃の形を作って。
「笑いながら人を殺せる。賞金稼ぎにはそんな心のタガがはずれた信念が必要です。相手に付け入らせない為にもね。」
「でも、、私は今を一生懸命に生きるって決めたから!」
あの子の言葉が蘇る。この時ばかりはただ無心にてぃてぃさんを見つめる事ができた。
「おやおや、そんな眼も出来るんですね。いいでしょう、ガラクータ!」
「はっ、Tittyさま、こちらに。」
てぃてぃさんの影から長身の男性が現れた。そんな、いつの間に。
「ケルピーの砲を模擬弾に換装しておきなさい。それと全員に通達を。明朝、模擬戦を実施します。」
「・・・仰せのままに。」
「桃夏センセ、私と模擬戦をしましょう。私に勝てたら今回の件をお譲りしますよ。」
てぃてぃさんはニッコリと私に微笑みながら言った。
「わかりました・・・受けて立ちます!」
負けるわけにはいかない・・・あの子の為にもっ。
私は挨拶も程ほどに部屋を駆け出していった。
「やれやれ、すまんな。厄介ごと押し付けちまって。」
マスターはやれやれといった感じで頭を下げた。
「いえ、私も若い子が無駄に命を散らすのは忍びないですし。でも最後のあの眼だけは良かった。もしかしたら良い勝負になるかもしれません。」
「ほう?あんたがそう言うなんて珍しいな。英国に名高い迫撃のTitty。あの子もそれを知ったら考え方を変えただろうに。」
「海の上では誰しもが同じ土俵です。そんなのは通用しませんよ。」
慢心すらない・・・か。こりゃあの子、地獄を見る事になるだろうな。
マスターは染み一つない天井を見上げた。先ほどの若い子の無事を祈りながら。





雲一つない青空。
戦闘用ガレオン【HMS Mezzanine】と重ガレー【ケルピー】が相対する。
距離500。互いが直進すればすぐに交差する距離だ。
「ねぇ、桃ちゃん、戦闘するならせめておいら達に一言くらいあったっていいんじゃないの?」
ゆぐが嗜めるように言った。
「う、うん。ごめんなさい。でもこれは私とあの子の問題だから・・・。」
「・・・そっかぁ。」
ゆぐは何も言わずに腕を組んだ。とりあえず今は目の前の戦闘に集中しないと。
「ゆぐは舵をお願い。まずは様子見で仕掛けてみる。」
「わかった。」
HMS Mezzanineの圧倒的なスペックがあるとはいえ、今の私では乗りこなせていない。
漆黒の帆が風を吸い込むように加速する。圧倒的な存在感に気圧されながらも私は前を見続けた。


 



「あれが、かの【HMS Mezzanine】ですか・・・。まさかあんな小娘が譲り受けてたとは。」
ガラクータが目を瞠る。漆黒の帆船【HMS Mezzanine】
七つの海に名声を轟かせた伝説の軍人。その懐刀とも言える戦艦が我々の前に立っていた。
荒波をかき分け悠然と佇む。並みの海賊ならその威容だけで逃げ出してしまう程の船だ。
「確かに船は超一流。ですが中身はどうでしょうか。ドタバータに伝令を、迫撃をかけます。」
先手必勝。それが私のスタイルです。
「さ、桃夏センセ、貴女の力見せてください。それが出来なければここで終わりです。」
Tittyは不敵に笑った。船長は違うとはいえ、あの戦艦と戦える。思惑を超えた純粋な闘争本能がそこにはあった。


 



「重ガレー更に加速!船長、突っ込んできやすぜっ。」
見張り台から船員が大声で警告する。
・・・突っ込む?このHMS Mezzanineに向かって?
それが本当だとすればもう勝負はついたようなものだ。
重ガレーの旋回では戦闘用ガレオンの身軽さについてはこれまい。この船が相手では尚の事。
「賞金稼ぎだか何だかしらないけど、私達を甘く見ているようね。いいわ、ここで終わらせましょう。水平射撃用意!」
「で、でも桃ちゃん、何だか嫌な予感がするよ・・・。」
「大丈夫、この船はあの人の乗船よ。そこらの重ガレーなんて相手にもならないわ。」
ピシャリと言い放つ。そう、そんな所でモタモタしてられない。早く目の前の船を倒してあの子の仇を討つんだからっ。
(いつでも反転できるように準備を。)
(了解でさぁ。しかし良いんすか?船長の指示もねぇのに)
(責任はおいらがとる。何かあってからじゃ遅いからね)
重ガレーとの距離300。互いが射程距離内に入ろうとしていた。






近づくにつれHMS Mezzanineの巨体が一際大きく見える。
船本来の持つプレッシャー。Tittyはそう感じ取っていた。
「しかし、見事な艦ですね。あの船長自らが設計しただけの事はあります。」
優美な曲線から撃ち出されるであろう砲撃は熾烈極まりないでしょうね。
ですが、桃夏センセ、貴女に操れますか?
「Tittyさま、距離300を切りました。これより有効射程に入ります。」
「これより回避行動に移る。ガラクータは砲手の指揮を。ドタバータは漕船で更に速力を上げなさい。」
「はっ。ドタバータに連絡します。」
漕船と風に乗った重ガレー【ケルピー】は敵艦に船首を向ける。
「ここで貴女の真価が問われます。好機と捉えるか、罠と捉えるか。」
どちらにしても我が迫撃からは逃れる事はできませんが。
Tittyはそう呟くと舵を握った。


 



「船長、重ガレーがこちらに船首を向けてきやした。どうしやすか?」
この距離で船首を向けてくる必要が?
戦闘用ガレオンの砲撃はクリッパーの比ではない。船首に直撃すれば模擬弾とはいえ大破は免れないだろう。
勝った。私はそう確信した。
「いいわ。距離は充分、目標重ガレー!てぇーーーっ!」
ドンドンドンドンドーンッ!
カロネード砲56門が火を吹いた。水平射撃によって命中を増した砲撃は敵の船首を破壊し、停止させる。
・・・そのはずであった。
「敵艦、更に船速を上げてきます!まるで効いてねえのか?」
「そ、そんなどうして・・・当たったじゃないッ?!」
「船長、不味いですぜッ!このままだと体当たりされちまう。早く次の指示を!」
どうしよう・・・。初撃が外された事に私は混乱していた。まさかあの船には砲撃が通じないっていうの?
「・・・艦を右に。交差後に再砲撃します。」
この時私は自分の指示に自信を持てませんでした。


 


 


「ガラクータ、船体と船員の被害状況は?」
「さすがはTittyさまです。共にほとんどありません。」
漕船と操帆を交互に切り返す事により距離を誤らせた。
熟練の職人が織り成す回避は窮地を好機へと変える。これまで何度もやってきた事だ。失敗はない。
「敵艦、接触を恐れ回頭に入る模様です。」
「やはりそうきましたか。ガラクータ、引導を渡してあげなさい。」
「仰せのままに。水平射撃よーい!」
戦闘用ガレオン【HMS Mezzanine】が巨体を震わせて右へ旋回する。
だが重ガレー【ケルピー】は更に速力を上げていた。
ケルピーの側舷とHMS Mezzanineの船尾が交差する直前、一直線に重なった。
近づいて撃つ。あたかも迫撃のように。
「うてぇぇぇーーー!」


 


 


「敵艦、間もなく本艦に再接近しやすっ。」
「・・・うん。相手も交差後を狙ってくるはず。回頭を急いで。」
初撃を防ぎきられた思いが頭を過る。どんな手段を使ったのだろう・・確か相手の船長はてぃてぃっていうんだっけ・・・。
敵船との距離50。間もなく互いが回頭する・・・。
「・・・船長!重ガレーがそのまま突っ込んできやす!不味いですぜ・・・回頭を狙われちまうっ!」
「なんですって・・・。」
目の前には直進する重ガレー。こちらは回頭を仕掛けている。このままだと船尾を狙い撃ちされる?!
脳裏に掠める敗北の二文字。頭が真っ白になりかけたその時だった。
「諦めるなッ!帆を全部降ろせッ。逆にぶつけるつもりで反転する!!」
ゆぐの指示で我先にと船員達が動く。自分達の船を守るために・・・。
ドーンドーンドーンッ!
衝撃と共に船が揺らぐ。模擬弾とはいえ重量に変わりはない。船を守る鉄板に亀裂が入り弾けとんだ。
「被害状況を知らせろ!」
「船尾部付近と側舷装甲に命中!ですが航行に支障はありやせん。た、助かったぁ・・・」
「ふぅー。」
ゆぐは深くため息をつくと私に歩み寄ってきた。そして・・・
パシーン。
小気味良い乾いた音が船内に響き渡った。
「桃ちゃん!模擬戦っていっても遊びじゃないんだよ!模擬弾にだって直撃すれば人が死ぬ・・・。リリーと同じ想いをおいら達にさせるつもりなのっ?」
皆が死ぬ・・・。リリーと同じ・・・。
昂っていた精神が冷水を浴びたように急激に冷やされていく。
そんなの、、、そんなの嫌だっ!
「ごめん、ごめんなさい・・・。」
私は深く頭を下げた。
「私の一存で皆が付き合ってくれてるのに、自分の復讐の事しか考えてなかった・・・。こんなんじゃ船長失格だよね。」
「だからおいら達がサポートするんじゃないか。」
先ほどとは打って変わって優しく語りかける。
「船長、あっしらも同じですぜ。船長に預けた命なんだ。困ったら何でも教えてくだせぇ。」
「うん!本当にごめんなさい。」
「桃ちゃん、ここからが本番だよ。迫撃のTittyにおいら達の力、見せてやろうよっ!」
Titty?・・・って迫撃のTitty!?
チュニスに着く前、偶然バロセロナの港で再会したddさんの言葉が蘇った。
「いいか桃夏。Tittyの表の顔に騙されるな。あいつは魔法を使う。そう、迫撃という名の魔法だ。」
相手に勝ったと思わせる。その瞬間、そいつは負けさ。
「ddさんが恐れる程の相手なんですか・・・。」
「ああ。全盛期のあいつくらいなもんだろう。迫撃を止められるのは。」
そう言うとddさんは真っ直ぐに私を見つめこう言い放った。
「もしTittyと対峙する事になったら迷わず逃げろ。今のお前じゃ無理だ。
もっとも、ヤツがそう簡単に逃がしてくれるはずもないが、お前なら逃げ切るくらいは出来るだろう。」
私ってホント馬鹿だ。英国に名高い迫撃のTittyを相手に甘く見てるだなんて・・・。
「もしかして知ってたの?」
「うん・・・でも桃ちゃん何も聞いてこないし、言っても気負うだけだと思ったからさ。」
ゆぐは舵を手に向き直った。
「さ、長話はおしまい。桃ちゃん、皆に指示をっ。」
「はいっ。手の空いてる者は修理を。残りの者は砲撃の再充填準備に取り掛かって。急いでっ!」
「了解!」
以心伝心。あの時と同じようにまた船が一つとなる。
ここからだ。今の私達なら、迫撃のTittyとだって戦えるはず。私は確信した。





「ほう、逆に肉薄させる事で致命傷を防ぎますか・・・やりますね。」
いくら威力のあるストレートでもある程度の距離がなければ本来の力は発揮できない。
そこを突いてくるとは。なかなかどうして。甘く見ていたのはこちらだったのかも知れません。
「Tittyさま、このままですと消耗戦にもつれ込みますが・・・。」
「仕方ないですね。今しばらく様子見です。被害を抑えながら砲撃を加えなさい。」


 


一進一退の攻防が続く。撃ち込み、撃ち込まれ、激しい砲撃戦となるも船の性能差でケルピーを徐々に押し始めていた。
ドーンッ!
「敵船に命中。被害小。やや航行に影響を与えた模様!」
「ゆぐ、残り弾数は?」
「斉射はあと三回くらいしか出来ないと思う。そんなに余裕はないよ。」
「そう、危険だけど接近して決めるしかないわね。」
離れて撃ちあっていては先に弾薬が切れる。白兵で重ガレーを打ち破るのは困難を極めるだろう。
「うん。おいらもそう思うよ。先に決めるしかない。」
私の考えを読んだかのようにゆぐが言った。
「皆っ、ここが勝負所よ!本艦はこれより重ガレーに肉薄します。」
「了解でさぁ、任せてくだせぇ!」
近距離での一斉射撃。今の私達にはもうこれしかない。皆の腹は決まった。あとはやるだけだ。
奇しくも初撃と同様の配置に戻った。同じ轍は二度と踏むもんか・・・。
私は今や復讐の事など頭から離れ、強敵と戦う猛き想いだけが自分の中に広まるのを実感した。


 



「Tittyさま。そろそろ頃合かと。」
「ええ。意外と、いやかなりの強敵でした。」
ここまでもつれ込んだのは半年振りでしょうか。迫撃なんて通り名が泣きますね。Tittyは苦笑した。
「ですが彼女達には敗北も覚えて頂かないとね。ドタバータに連絡を。これより迫撃をかけます。」
敵として認めたからには自分の全てを賭ける。数多の海賊達を葬った迫撃。
桃夏センセ、私を越えられますか?
「・・・仰せのままに。」
ガラクータが恭しく敬礼する。彼は知っていた。
敬愛する船長がこのように言った時、それは勝利を確信した時だと。


 


 


「重ガレー突っ込んできやしたっ。さっきと同じかもしれやせん。船長どうしやすか?」
敵艦との距離300。間違いない。Tittyは迫撃をかけてくる。
「ゆぐ、どう思う?」
「多分桃ちゃんと同じ考えだと思う。迫撃の体勢だね。」
でもおいら達もここにかけるしかないよ。と、腕を叩いた。
「弾道学と水平射撃。これを両立させるわ。それしかないと思う。」
通常、弾道学は斜め上に撃ち上げる。正確に距離を計算し目標到達地点を伸ばす為のものだ。
水平射撃にあっては真横に。飛距離を犠牲にし命中を劇的に向上させる。
ボールを投げる時、下手投げで投げるか、上手投げで投げるか。要はそんな差だ。
「両立ですかぁ。全くうちの船長は無茶ばっか要求しやがる。」
「全力でサポートしてもらうわよっ。私と皆は一心同体なんだから。」
「わかってやすぜ。野郎どもっ、船長のお達しだ!全力を持って応えろ!」
どこからともなくときの声が沸き起こる。
敵船との距離250。
射程範囲内だ。だけどまだ早い。
焦る気持ちを抑え付ける。この前だってやれた。今回だってきっとできるはず。
「敵艦船速上昇!きやすぜっ。」
敵艦との距離150。
まだ・・・もう少し!
「距離100を切りやしたっ。船長!!」
「今よッ!弾道水平射撃・・・うてぇぇぇーッ!」
HMS Mezzanineが火花を散らす直前、ケルピーの船首から一発の砲弾が撃ち込まれた。
今更一発なんて・・・!?
緩やかな曲線を描きながら先に到達したその砲弾は、船体に触れる直前四散した。
辺りに煙幕が巻き上がる。
ドンドンドンドーンッ!!


 


 


「桃夏センセ、貴女は良い腕をお持ちだ。ですが経験が足りなかったようですね。回避行動を。」
煙幕弾による一瞬のタイムラグをついてケルピーが加速する。
スコットランド地方に伝わる幻獣ケルピー。若い馬に化け人を誘惑し海へ連れ去る。
その名の如く、ケルピーは駆けた。
「全弾回避。Tittyさま!」
敵艦との距離50。
Tittyは右手を高らかに掲げ命令を下す。
「ドタバータに連絡。艤装解除!」
Tittyの命令が伝わるや否やケルピーの船首部分が丸みを帯びたものから、鋭角なラムへと変わる。
あたかも猟犬が獲物を捕らえるが如く。
「桃夏センセ、これが私の・・」
船体に鈍い手応え、同時に温存しておいたキャノン砲56門が火を噴いた。
「・・・迫撃です。」
ドンドンドンドンッ!!
ラムで傷付いた船体に模擬弾が突き刺さる。
それは魔法のように。全ての抵抗を無に帰し航行を停めた。
「敵船、航行不能。Tittyさま、お見事です。」
「いえ、ケルピーも満身創痍。これがもし実戦であったならまた違った結果になったのかもしれません。」
ホント内心焦りましたよ。まさか弾道水平射撃とはね。
さすがはあの人が認めるだけはある。あとはこの経験をどう生かすかです。
「ガラクータ、HMS Mezzanineに信号旗を。内容は・・・」





「負けちゃったね・・・。」
「うん・・・。」
ゆぐが気遣うような表情を見せた。でも・・・
「船長、ケルピーからの信号旗です!」
『今日という日を忘れないでください。貴女が痛みを乗り越えて海に戻るのを、待ってますよ。』
今日という日を忘れるな、かぁ。
「結局最後まで、Tittyさんには勝てそうにもないなぁ。」
顔が自然と綻ぶ。周りを見ると皆もそうだった。
「ええ、すげぇ人ですよ。海にはまだまだこんなすげぇ人がいる。そう思うとわくわくしまさぁ。」
「うん。そうだねっ。」
今を一生懸命にやった結果だ。悔いはない。
Tittyさんなら確実に巡礼船を襲ったやつらを仕留めるだろう。
「さぁて、桃ちゃん、おいら達にはまだするべき事があるよ!」
「こら~、私の台詞取らないのっ。」
「たまにはおいらも決めないとね!」
もう。私はゆぐの手を借りて立ち上がる。
晴れ渡った空が、いつもより澄み切って見えた。


 


 



三日後。
「えっと、そこの土手にもう少し土をかぶせて。」
「了解でさあ。」
「ゆぐは花壇につかう煉瓦の補充をお願い。」
「了解!任せてよっ。」
模擬戦から三日後、私達はチュニスの郊外にある荒地へと来ていました。
「あとは船倉からブーゲンビリアを持ってこないとね。皆っ、モタモタしてると日が暮れちゃうぞ、急いで急いでっ。」
「船長てば妙に張り切ってるなあ。ま、当然か。」
時折談笑しながらも手は休めない。見る見るうちに花壇が出来上がっていた。
「実はね、うちのお母さんが大好きだった花があるんだけど、それってカリブにしか咲いてないみたいなの・・・」
「カリブにしか咲かないお花かぁ。」
「うんっ。桃おねーちゃんが一人前になってカリブに行ける様になったら、持ってきて欲しいの!」
「うん、わかった。約束する。船倉いっぱいにつんでくるよ!」
「やったぁ!約束だよっ。花壇でいっぱいにするんだ~。」
リリーが破顔した。太陽の下、どこまでも透き通った透明な笑顔で。
二度とは戻らないあの日を思い出す。
どんなに悔やんでも時間は戻らない。
だから、今を一生懸命に生きていかなくちゃね!
ブーゲンビリアは中南米原産の花。現地では年中咲いている花だが、こちらでは冬には枯れる。
でも春にはまた新しい芽を出すだろう。
「その時まで、待っててね。リリー。」
涙が頬を伝わってこぼれた。
ブーゲンビリアの花言葉、それは・・・


 


                                   おしまいっ




あとがき
短編とかいいながら中編くらいの長さになっちゃいました。
テーマとしては駆け出しの自分。むかーし、始めた頃、チュニスやアルジェに行ったのはいいけど変装足りなくて、でもどうしようもなくて・・・。
そんな事ありませんでしたか?今ではもう考えられないけど、始めたての頃、何も知らなくて右往左往してた自分を思い出して貰えたら作者冥利に尽きますっ。酒場で噂されるような航海者でも始まりは皆一緒。
昔の新鮮な気持ち思い出して楽しくやっていけたらいいですねっ。
こっそり声援くれると中の人喜びますので、良かったら応援してくださいっ。
それではまた次のあとがきで!

花言葉は自分でぐぐって見てくださいっ。
新しい知識が増えるはず?




次回予告?
「なあ、あんた。腕に自信はあるかい?」
ギルドマスターが覗き込むように視線を投げかけてきた。
「うん。戦う覚悟はあるつもりだよ。」
柔らかく受け止め返す。これが出来るようになったのは極々最近の事。
「・・・あんたならやれそうだな。ここ数ヶ月の間に何隻もの軍船がやられちまってるんだ。そいつは何故か商船ややる気のない軍船は襲わないらしい。」
「へぇ。変わった海賊もいるものね。」
「だが商船にとっちゃ、いるだけで脅威だからな。いつ牙をむかれるかわかりゃしねえ。」
人の心は変わってゆくもの。確かにそうだね。
「ここいらじゃあ、辻斬りのるかって呼ばれてるヤツなんだか、どうだいあんた討伐してくれないか?」

次回「海賊になりきれなかった海賊(仮)」
そのうちこっそりカキカキするかも?


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この記事に対するコメント
コッ・・・コメントに困る~!
これで劇をするのかな?
【2006/09/19 00:16】 URL | KEN #- [ 編集]

>KENさま
いらっしゃいませっ。
続き読まれるとわかるのですが、今回のお話はちょっとアレなので劇にはとてもとても・・・。
演劇の方は、誰でも知っているかぐや姫をDOLでアレンジしたようなものになります。
脚本二人でやってるので進行速度は遅めですが、見捨てないでこっそりお待ち下さると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いしますっ。
【2006/09/19 03:17】 URL | 桃夏 #ChTp5cnI [ 編集]


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